無電解ニッケルメッキとは、電気を使用せずに化学的還元作用によりニッケルリン(Ni-pメッキ)の皮膜を析出させます。大きな特徴として、メッキの膜厚を均一に処理することが出来ることです。
処理方法は、通電せずにメッキ液中で化学的還元反応を利用してメッキを施します。
無電解ニッケルメッキで使われるメッキ液には、還元剤として次亜リン酸ナトリウムが使用されることから、析出する皮膜にはリンが含まれます。そのため無電解ニッケルメッキには、一般的なニッケルメッキとは異なる様々な特性があります。
この記事では、無電解ニッケルメッキの原理や特徴などを解説します。
目次
まずは、無電解ニッケルメッキの原理について説明します。
無電解ニッケルメッキは、硫酸ニッケルおよび次亜リン酸ナトリウム、pH緩衝材、錯化剤、安定化剤等で構成されるメッキ液に対象物を浸し、液中での還元反応を利用することで対象物表面にリンを含んだ金属皮膜を析出させるメッキ手法です。[1]
【無電解ニッケルメッキの原理】
無電解ニッケルメッキの皮膜はリンが含有している皮膜だと述べましたが、その含有率は3〜13%と幅広いです。一般的には「低リンタイプ」「中リンタイプ」「高リンタイプ」に分けられ、それぞれ磁性特性、耐薬品性、耐食性、硬度などを変化させられます。
また、無電解ニッケルメッキ後にべーキング処理(熱処理)を行うことにより、Hv900〜1000程度の高硬度を実現することも可能です。RoHS指令にも抵触しないため、安心して使用することが出来ます。
無電解ニッケルメッキの特徴は全部で5つありますが、大きな特徴としてはメッキ処理したい対象物が複雑な形状をしていても、均一な皮膜が作れることが挙げられます。
他にも、硬度が高く摩耗性も高いという特徴があります。硬度が高く摩耗性が高いと、ネジ締めなどの際に発生する摩擦熱などによってメッキが剥がれてしまうといったことを避けられるメリットがあります。
無電解ニッケルメッキは、電解ニッケルメッキと比較すると次のようなメリットがあります。
<低リンタイプ>
<中リンタイプ>
<高リンタイプ>
続くこのパートでは、無電解ニッケルメッキの種類について説明します。
既に何度か述べているように、無電解ニッケルメッキには「低リン」「中リン」「高リン」とあります。
【無電解ニッケルメッキの種類におけるリン含有量での特徴について(表1)】
低リン | 中リン | 高リン | |
---|---|---|---|
リン含有率(%) | 1~4 | 8~9 | 11~13 |
硬度(Hv)熱処理400℃1時間 | 650~700 900~1000 |
500±50 900~1000 |
500程度 900~1000 |
密度(g/㎤) | 8.2 | 7.85 | 7.75 |
溶融点(℃) | 1260~1425 | 890 | 890 |
熱膨張係数(μm/m/℃) | 13~14 | 12~13 | 11~12 |
電気抵抗率(μΩcm) | 20~30 | 50~60 | 150~200 |
抵抗温度係数(ppm/℃) | 1000 | 300 | 100 |
熱伝導度(cal/cm/℃) | 0.0105~0.0135 | 0.0105~0.0135 | 0.02 |
比重 | 7.9 | ||
応力 | 圧縮 | 圧縮 | 圧縮 |
磁性 | 磁性 | 磁性 | 非磁性 |
抗張力(Mpa) | 200 | 800~900 | 800~900 |
伸び率(%) | <0.5 | 0.7 | 1.5 |
ヤング率 | 50~52 | 62~66 | 50~70 |
テーパー摩耗(TWI) | 11 | 16~20 | 21~25 |
耐食性塩水噴霧試験(時間) | 24 | 200 | 1000 |
耐酸性 | 弱 | 良 | 優 |
耐アルカリ性 | 良 | 良 | 優 |
はんだ付け性 | 優 | 良 | 可 |
皮膜均一性 | ±5%以下 | ±10%以下 | ±5%以下 |
結晶構造300℃1時間 | 結晶結晶 | 微アモルファス結晶 | アモルファス結晶 |
耐摩耗性 | 可 | 優 | 良 |
均一析出性 | ±5% | ±10% | ±10% |
【無耐薬品性(表2)】
基本的に金属ニッケルは、塩酸・硫酸・硝酸に溶けます。試薬 | 温度(℃) | 腐食率(μm/年) |
---|---|---|
アセトアルデヒド | 65.6 | 0.5 |
アセトン | 室温 | 0.076 |
アクリロニトリル | 65.6 | 0.4 |
硫化アンモニウム | 48.9 | 3.8 |
酢酸イソペンチル | 室温 | 0.048 |
塩化イソペンチル | 室温 | 0.33 |
ビール | 7.2 | 0.2 |
ベンゼン | 室温 | 0.04 |
酢酸ベンジル | 室温 | 0 |
ベンジンアルコール | 室温 | 0.092 |
48.5%塩化カルシウム | 室温 | 0.5 |
カプロラクタム | 85 | 0.76 |
カプリル酸 | 65.6 | 1.52 |
硫化炭素 | 室温 | 0 |
四塩化炭素 | 室温 | 0 |
5%洗剤 | 室温 | 0.94 |
エチルアルコール | 室温 | 0.16 |
エチルグリコール | 室温 | 0.64 |
37%ホルムアルデヒド | 室温 | 0.34 |
ガソリン | 室温 | 0.56 |
80%乳酸 | 室温 | 3.7 |
メチルアルコール | 室温 | 0 |
ナフサ | 室温 | 0 |
ナフタル酸 | 65.6 | 0.5 |
オレイン酸 | 室温 | 0.3 |
オレンジジュース | 室温 | 0.33 |
テトラクロロエチエン | 65.6 | 3.8 |
石油 | 室温 | 0 |
ポリ酢酸ビニル | 98.9 | 1.27 |
ロジン | 室温 | 0 |
10%炭酸ナトリウム | 室温 | 0 |
3%塩化ナトリウム | 室温 | 1 |
50%水酸化ナトリウム | 121.1 | 0 |
ソルビトール | 65.6 | 2.5 |
ステアリン酸 | 70 | 0.5 |
砂糖水 | 室温 | 0 |
蒸留水 | 室温 | 0.74 |
25%尿素溶液 | 室温 | 0 |
産業分類 | 応用部品 | 使用目的 |
---|---|---|
自動車工業 | ディスクブレーキ、ピストン、シリンダ、ベアリング、精密歯車、回転軸、カム、各種弁、エンジン内部、変速機 | 耐食性、耐摩耗性、硬さ、焼き付き防止、寸法精度 |
電気電子工業 | 接点、シャフト、パッケージ、ボルト、ナット、マグネット、ばね、ステム、コンピューター部品、電子部品、抵抗体 | 耐食性、硬さ、はんだ付け性 溶接性、寸法精度 |
精密機器工業 | カメラ、時計部品、TV部品、コピー機、プリンター、光学機械部品、電子顕微鏡部品、分析機器部品 | 耐食性、耐摩耗性、硬さ、電気特性、非磁性、寸法精度 |
航空、船舶 | 水圧計機器、電気系統部品、弁配管、エンジン部品、スクリュー部品など | 耐食性、耐摩耗性、硬さ、寸法精度 |
化学工業 | 反応槽、輸送管、揺動弁、バルブ類、ポンプ、パイプ内部、熱交換器 | 耐食性、耐摩耗性、酸化防止、汚染防止 |
その他 | ハードディスク、冷凍機、冷暖房器、工作機械部品、真空機器、各種金型、 繊維機械部品、食品機械、半導体産業部品、航空機など | 耐食性、耐摩耗性、硬さ、耐熱非磁性、離型性、気密度、寸法精度 |
1002 化学メッキ法 | 1015 還元 |
2005 還元剤 | 2006 緩衝剤 |
3019 脱脂 | 5002 ベーキング |
6001 無電解メッキ法 | 4033 ストライクメッキ、ストライク |
3020 電解脱脂 | 2023 酸浸せき |
【JIS規格等級】
単位:μm等級 | 素地金属 | メッキの 最小厚さ |
参考用途 |
---|---|---|---|
1級 | 鉄及び鉄合金 銅及び銅合金 アルミニウム及びアルミニウム合金 |
3 | はんだ付け |
2級 | 鉄及び鉄合金 銅及び銅合金 アルミニウム及びアルミニウム合金 |
5 | 防食、はんだ付け |
3級 | 鉄及び鉄合金 銅及び銅合金 アルミニウム及びアルミニウム合金 |
10 | 防食、耐摩耗 |
4級 | 鉄及び鉄合金 銅及び銅合金 アルミニウム及びアルミニウム合金 |
15 | 防食、耐摩耗 |
5級 | 鉄及び鉄合金 銅及び銅合金 アルミニウム及びアルミニウム合金 |
20 | 防食、耐摩耗 |
6級 | 鉄及び鉄合金 銅及び銅合金 アルミニウム及びアルミニウム合金 |
30 | 防食、耐摩耗 |
7級 | 鉄及び鉄合金 銅及び銅合金 アルミニウム及びアルミニウム合金 |
50 | 防食、耐摩耗 |
ニッケル | nickel |
---|---|
無電解ニッケルメッキ | Electroless nickel plating |
還元反応 | Reduction reaction |
脱脂 | degreasing |
電解脱脂 | electrolytic degreasing |
酸洗い | deoxidizing,pickling |
ストライク | strike,strike plating |
RoHS指令 | Restriction of Hazardous Substances |
電気を必要としない無電解ニッケルメッキは、精密部品や複雑な形状あるいは不導体など、電解ニッケルメッキではうまくメッキができない場合は、無電解ニッケルメッキを選択するのがいいでしょう。
また、熱処理を行うことで硬度も高くなりますから、硬質クロムメッキの代替え処理としても使用されることもあります。
無電解ニッケルメッキは、リンの含有率で特性が変化しますので、用途に応じたメッキを選択することが大切です。
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脚注