硬質アルマイト処理は、低温の硫酸液などの酸性液で厚くアルマイト皮膜を生成する処理のことをいいます。硬質アルマイト処理を行って生成された皮膜は、高硬度(Hv450〜500)及び、耐摩耗性に優れた陽極酸化皮膜になることが特徴で、自動車や航空部品などに広く採用されている処理方法です。
目次
低温の硫酸液で厚い皮膜を生成する硬質アルマイト処理は、高硬度(Hv450〜500)でかつ耐摩耗性に優れた皮膜になることが特徴です。そのため、硬質アルマイト処理のことをハードアルマイトと呼ぶこともあります。
陽極酸化処理といわれ、電解を利用して電解液中の分子やイオンに対して陽極で行わせる酸化反応をいいます。
アルミニウムを陽極として通電させることで、酸化されて陽イオンとなり、溶液中に溶解し発生した酸素と化合して、耐久性の高い酸化アルミニウムの皮膜が生成されます。
この電解処理をアルマイトといいます。
アルミニウムを硫酸などの溶液中で電流を流すと、表面のアルミニウムが溶解(浸透)+同時に酸化皮膜が成長し、時間の経過と共にセルと呼ばれる立体構造を形成します。
基本構造は六角柱の集合体です。
アルマイト処理の皮膜構造は、以下のようなハニカム構造です。
硬質アルマイト処理の特徴は主に5つあり、「硬度が高い」「皮膜を厚くできる」「耐摩耗性が向上し硬質クロムメッキと遜色ない摺動摩耗性が手に入る」「絶縁皮膜」であり抵抗値が10の12乗Ωから10の14乗Ωとなる」「破壊電圧」が高く、封孔処理したもので1000〜2000Vある」といったことが挙げられます。
中でも、硬度が高くなることで得られる摺動摩耗性については、摩耗性、滑り特性が求められる自動車部品等にとっては重要な要素です。通常のアルマイト処理よりも厚い皮膜が生成されるため、強度が増し耐久性が向上します。
硬質アルマイト処理のメリットは次の3つです。
硬質アルマイト処理のデメリットは次の3つがあります。
硬質アルマイト処理は、通常のメッキとは皮膜生成の方法が異なります。
硬質アルマイト処理の場合は、酸化皮膜を生成するのに対して、メッキの場合はメッキ皮膜を生成します。また膜厚にも違いがあり、通常のメッキと比べ厚い皮膜を生成できるのが硬質アルマイト処理の特徴です。
また、生成の方法に関しても電流の流し方が逆になったり処理工程などに違いがあります。
例えば、10μm厚の処理をする場合、メッキは10μm増加します。
一方アルマイト加工(処理)は、皮膜の半分がアルミニウムの素地に浸透し残りの半分がアルミニウムから形成されるため、下へ浸透した皮膜の分、元のアルミニウム部分の厚みが変わります。
硬質アルマイト処理が行われるのは、主に自動車や航空機などの工業分野で、硬度や摩耗性だけでなく潤滑性が求められる分野で幅広く使われています。自動車や航空機以外には、シャフトやロールなどの摺動性が必要な部品に対しても硬質アルマイト処理が好まれます。
皮膜厚さの等級
等級 | 平均皮膜厚さμm |
---|---|
AA3 | 3.0以上 |
AA5 | 5.0以上 |
AA6 | 6.0以上 |
AA10 | 10.0以上 |
AA15 | 15.0以上 |
AA20 | 20.0以上 |
AA25 | 25.0以上 |
皮膜厚さの等級と主な用途例
皮膜厚さの等級 | 主な用途例 |
---|---|
AA3 | 反射板、家電部品(内部)など |
AA5 AA6 AA10 |
台所用品、日用品、家電部品、装飾品、家具部材、車両内装、建築部材(屋内)など |
AA15 AA20 AA25 |
台所用品、車両外装、土木・建築用部材(屋外)、船舶用品など |
耐食性
皮膜の耐食性は、各種の環境にたれる特性で、用途によっては酸性、アルカリ性及び塩水雰囲気などの環境に耐える特性が要求される場合があるが、その品質は下記の表1または表2に適合しなければならない。
表1 アルカリの耐食性
等級 | アルカリ滴下試験又は起電力式耐アルカリ試験 | |
---|---|---|
A種 | B種 | |
AA3 | - | - |
AA5 | - | - |
AA6 | 30以上 | 90以上 |
AA10 | 50以上 | 150以上 |
AA15 | 75以上 | 225以上 |
AA20 | 100以上 | 300以上 |
AA25 | 125以上 | 375以上 |
表2 キャス耐食性
等級 | キャス試験 | |
---|---|---|
試験時間 h | レイティングナンバRN | |
AA3 | - | - |
AA5 | ||
AA6 | 8 | 9以上 |
AA10 | 16 | |
AA15 | 32 | |
AA20 | 56 | |
AA25 | 72 |
耐摩耗性
皮膜の耐摩耗性は、摩耗環境に耐える特性であり、用途によっては摩耗性物質の衝突による摩耗、摺動摩耗及び転がり摩擦などの摩耗環境に耐える特性が要求される場合があるが、その品質は表3のいずれかに適合しなければならない。なお、噴射摩耗試験の耐摩耗性は、通電判定法によることとし、素地が露出するまでの摩耗時間[W1(T)]で表す。
表3
等級 | 砂落とし摩耗試験s | 噴射摩耗試験s | 往復運動平面摩耗試験 ds/μm |
---|---|---|---|
AA3 | - | - | - |
AA5 | 30以上 | ||
AA6 | 150以上 | ||
AA10 | 500以上 | 24以上 | |
AA15 | 750以上 | 36以上 | |
AA20 | 1000以上 | 48以上 | |
AA25 | 1250以上 | 60以上 |
103 陽極酸化皮膜 | 6011 陽極酸化処理、陽極処理 |
113 陽極 | 1014 酸化 |
437 封孔処理 | 705 バリヤー層 |
754 耐摩耗性 | 139 光沢 |
硬質アルマイト | Hard anodized |
---|---|
アルマイト | anodized aluminum |
陽極酸化皮膜 | Anodized film |
陽極酸化処理 | anodizing |
酸化アルミニウム | Aluminum oxide |
硫酸 | sulfuric acid |
シュウ酸 | oxalic acid |
分子 | molecule |
イオン | ion |
バリヤー層 | barrier layer |
孔(ポア) | hole |
ハニカム | honeycomb |
絶縁皮膜 | insulating film |
破壊電圧 | breakdown voltage |
バフ研磨 | Buffing |
メッキ | plating |
アルカリ性 | alkalinity |
電流 | current |
硬質アルマイト処理は、品質の性能としてさまざまな優れた特性がありますが、中でも重要なのは、皮膜厚さ、皮膜硬さおよび耐摩耗性です。
その他、単位面積当たりの皮膜質量、耐食性、潤滑性、絶縁耐力等がありますが、反面、皮膜がもろいといったデメリットもあります。ですからメッキに求めたい性能や素材の特性を理解した上で硬質アルマイト処理を選択しなくてはなりません。
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