アルマイト加工(処理)とは、アルミニウムを陽極として電解処理を行い、耐久性の高い酸化皮膜を生成する表面処理のことです。
アルミニウムは軽くて加工しやすい一方で、傷がつきやすく錆びやすい特徴があります。その傷が原因で化学反応が起き製品が腐食することもあります。このようなアルミニウムの弱点を補うためにアルマイト加工(処理)が施されます。
アルマイト加工(処理)によってアルミニウム表面に酸化皮膜を作ると、耐腐食性や耐摩耗性に優れた丈夫なアルミニウムを作ることが可能です。アルマイト加工(処理)の方法には、白アルマイト加工(処理)、硬質アルマイト処理、テフロン硬質アルマイト処理、着色アルマイト処理(カラーアルマイト)という4つの方法があります。それぞれの違いについて理解し、製品の使用環境や目的に応じて適切なアルマイト加工(処理)(処理)を行うことが重要です。
目次
アルマイト加工(処理)は、電解質溶液中にアルミニウムを浸し、アルミニウムを陽極(正極)として電気を流します。すると溶液中で電気分解が進み、液中で発生した酸素と結合してアルミニウムの表面に酸化アルミニウムの皮膜が生成されます。
硫酸などの溶液中にアルミニウムを浸して電気を流すと、表面のアルミニウム(AI)が溶解(浸透)し、同時に酸化皮膜が成長します。時間の経過とともに、セルと呼ばれる立体構造を形成していくのです。
反応式:
ちなみに、アルマイトの皮膜構造は、次のようなハニカム構造をしています。
【アルマイトの拡大画像】
アルマイト加工(処理)には、次の4つの特徴があります。
アルミニウムは鉄や銅などの金属よりもイオン化傾向の高い金属です。水や酸素などさまざまな化学物質と反応するため腐食しやすい欠点があります。
アルミニウムの表面にアルマイト加工(処理)で酸化皮膜を作ると腐食しやすい欠点を補うことができ、耐食性が向上します。
アルミニウムの硬さはHv20〜150(合金によって異なる)程度です。アルマイト加工(処理)をすると、硬度がHv200以上程度まで上昇するため、耐摩耗性が向上します。
アルミニウムは金属なので電気を通します。
アルマイト加工(処理)によって生成された酸化皮膜は電気を通さない性質があるため、絶縁性を高くすることが可能です。
アルマイト加工(処理)によって生成される酸化皮膜は無色透明です。皮膜は多孔質、繊維状になるため、染料により酸化皮膜に着色することができます。
白アルマイト加工(処理)とは、無色アルマイト加工(処理)のことを言います。
一般的にアルマイト加工(処理)と言われる時は、この白アルマイト加工(処理)のことだと考えてください。
生成される酸化皮膜の色は、基本的には無色透明です。材質によっては自然発色するため、やや黄色を帯びた色やグレー系になる場合があります。
アルマイト業者や素材、アルマイト処理液によって色味には若干の違いが出るのが特徴です。
白アルマイト加工(処理)の特徴としては、次のような3つの特徴があります。
アルマイト加工(処理)を施すことで耐食性が向上します。酸やアルカリなどの腐食性物質に対して優れた耐性を持ち、さまざまな産業分野での利用が可能になります。
白アルマイト加工によって得られた皮膜は、均一性に優れています。
アルミニウムは金属なので電気を通します。白アルマイト加工によって生成された酸化皮膜は電気を通さない性質があるため、絶縁性を高くすることが可能です。
硬質アルマイト処理とは、アルマイト加工(処理)のうち、10℃以下(0〜5℃)の低温の処理液で厚いアルマイト皮膜を生成し、高硬度かつ耐摩耗性に優れた皮膜を作る処理のことをいいます。
硬質アルマイト皮膜の多くは50μm程度の厚さが一般的です。白アルマイト加工(処理)の皮膜は5〜25μm程度ですが、硬質アルマイト加工(処理)は50μm程度となります。素材の性質が皮膜性能の差となって現れてきます。
アルマイト加工(処理) | 硬質アルマイト処理 | |
---|---|---|
色 | シルバー(白) | グレー、褐色 |
硬度 | Hv200前後 | Hv400〜 |
皮膜の厚さ | 5〜25μm | 50μm程度 |
硬質アルマイト処理の特徴は次のような5つがあります。
Hv450〜500程度の高硬度皮膜が一般的です。材質により柔らかいものもあります。
素材により30〜100µm厚まで処理が可能です。これは白アルマイト加工(処理)にはない特徴です。
通常の白アルマイト加工(処理)よりも厚い層を形成できるため、耐摩耗性が向上します。
通常の白アルマイト加工(処理)よりも厚い層を形成できるため、耐電圧性が向上します。
通常の白アルマイト加工(処理)でも1012〜1014Ω・cmの優れた絶縁皮膜ですが、硬質アルマイト処理を施すことでさらに絶縁性が向上します。
上記のように、膜厚を厚くできることや、耐電圧性の向上などは白アルマイト加工(処理)にはない特徴となります。
着色アルマイト処理(カラーアルマイト)とは、アルマイト加工(処理)後、表面にできる孔(ポア)に有機染料、無機化合物などを吸着させて染色する方法です。この処理により、さまざまなカラーリングが可能となります。
アルマイト加工(処理)後、金属塩を溶解した浴中で電解を行って、金属または金属化合物を皮膜孔中に析出させて着色する方法もあります。これを電解着色と呼びます。
着色アルマイト処理(カラーアルマイト)には、以下の特徴があります。
さまざまなカラーで着色できるため、外観性を向上させることができます。
通常のアルマイト加工(処理)に着色をすることで表面状態を変えるため輻射率が上がり、放熱性が向上します。
艶消し着色アルマイト処理で、光の反射を防止することができます。
美しい彩色を施すことで製品の外観を改善できる特徴を活かして、生活用品や調理器具、スポーツ用具、パソコンなど、さまざまな製品に活用されています。
アルマイト加工(処理)におけるメリット・デメリットをまとめました。
耐食性の向上 | アルマイト加工(処理)によって形成される酸化皮膜は、金属表面を保護するバリア層となり、金属表面を腐食から保護します。表面は均一な皮膜となり、耐食性が向上します。 |
---|---|
耐摩耗性の向上 | アルミニウムの硬度はHv20〜150(合金によって異なる)ですが、アルマイト加工(処理)によってHv200以上の硬度に高めることができます。これにより部品や機械の摩耗や傷の発生を減らし、表面の耐摩耗性・耐久性の向上が可能です。 |
放熱性の向上 | アルミニウムには熱をよく伝える性質があります。アルマイト加工(処理)をすることで、熱伝導率はアルミニウムの3分の1まで低くすることが可能です。 |
絶縁性の向上 | アルミニウムは金属なので電気を通します。アルマイト皮膜は電気を通さない性質のため、絶縁性が向上します。 |
装飾性の向上 | アルマイト加工(処理)によって形成される酸化皮膜は多孔質構造を持っており、色素を含浸させることができます。多彩なカラーバリエーションを楽しめるため、装飾性が向上します。 |
耐熱性が低い | アルミニウムと比較すると、アルマイト皮膜の熱伝導率は3分の1まで低くなり、耐熱性が低くなります。100℃以上でクラックや剥がれが生じる可能性があり、注意が必要です。 |
---|---|
柔軟性がない | アルマイト皮膜は硬度が高い一方で柔軟性がなく、衝撃やひずみに対しては脆くなります。アルマイト皮膜の部材を曲げて加工すると、割れや剥離が発生する可能性があります。 |
均一形成が難しい | アルマイト皮膜は非均一な厚さや組成を持つ場合があります。凹凸のある表面や複雑な形状を持つ部品では、酸化皮膜の厚さや品質の均一性を保つことが難しい場合があります。 |
追加工が難しい | アルマイト加工(処理)後の表面は酸化皮膜で覆われており、その上に塗装やプリントなどの追加処理を施すことは困難です。酸化皮膜の密着性が高いため、追加工する際には酸化皮膜の剥離や傷の発生に注意する必要があります。 |
強酸・強アルカリ性に弱い | 強酸や強アルカリ、あるいは長時間の曝露によって、酸化皮膜の組成や構造が変化し、溶解や劣化が発生します。 |
表面に皮膜を作る処理のため、メッキと同じと思われることもありますが、「メッキ」と「アルマイト加工(処理)」は全く別ものです。
メッキは、表面に金属の膜をつける処理で、メッキしたいものを陰極にすることで、製品の上に異種金属の膜が重なりメッキ層を形成します。
一方、アルマイト加工(処理)は、皮膜の半分がアルミニウムの素地に浸透し、残りの半分がアルミニウムから形成されます。そのため、下へ浸透した皮膜の分、元のアルミニウム部分の厚みが変わります。
アルマイト加工(処理)の皮膜特性についてご紹介します。
電解液の種類やアルミニウム合金の種類によっては、アルマイト加工(処理)時に皮膜自体が自然に発色します。
アルマイト皮膜は、他の方法で得られる皮膜と比較して透明度が高く、多くのアルミニウム合金に適しています。また、アルマイト加工(処理)前に化学研磨などの光輝仕上げを行った後の皮膜としても最適です。
皮膜の熱伝導率は市販の純アルミニウム材の約1/3(66.98w/h/m/K(0.16cal/cm.sec.deg)程度です。熱伝導率の低さを利用して、さまざまな製品に遮熱用として100µm以上の硬質皮膜を処理することがあります。
アルマイト皮膜の熱膨張係数は、4.5×10‾6/degです。
素材 | 線膨張率(1/℃) |
---|---|
亜鉛 | 30.2×10 |
アルミニウム | 23.1×10 |
真鍮 | 17.5×10 |
銅 | 16.5×10-6 |
金 | 14.3×10- |
ニッケル | 12.8×10-6 |
鉄 | 11.8×10-6 |
酸化アルミニウムは両性金属酸化物です。すなわち、強酸やアルカリの環境では化学反応により腐食が発生します。中性の環境では比較的安定するため、耐食性に優れています。
使用環境に応じて、皮膜の種類や厚さを適切に選択することが大切です。
下記の表に、化学薬品や食料品、飲料などに対するアルマイト皮膜の耐食性をご紹介します。
対象 | 評価 | 対象 | 評価 |
---|---|---|---|
水 | A | 酢酸アミル | A |
井戸水 | A | アミルアルコール | A |
水道水 | A | ベンゼン | A |
海水 | A | ベンゾンアルコール | A |
酢 | A | 酢酸 | A |
梅酢 | C | 二酸化炭素 | A |
酢酸 | A | 一酸化炭素 | A |
塩酸 | F | ホルマリン | A |
硝酸 | B | グリセリン | A |
硫酸 | B | 青酸 | A |
NaOH | F | 窒素 | A |
日本酒 | A | 酸素 | A |
ビール | A | フタール酸 | A |
ウイスキー ブドウ糖 |
A B |
ビクリン酸 ゴム |
A A |
醤油 | C | ステアリン酸 | A |
ソース | C | 肝油 | A |
バター | A | 食用油類 | A |
牛乳 | A | 鉱油類 | A |
昇こう水 | F | 天然ガス | A |
アセトアルデヒド | A | 血液 | A |
アセトン | A | 石けん | A |
無水アンモニア | A | 粉石けん | B |
アンモニア水 | A | ソープレスソープ | A |
A:容器として可。
B:試験して、その結果により使用の可否を判断する。
C:容器にはならないが皿のごとく洗って使用すれば可。
D:腐食を覚悟の上で使用する必要あり。
E:相当浸食される。
F:使用に耐えず。
アルマイト加工(処理)に使われる溶液には、以下のような種類があり、それぞれ特性や用途が異なります。
水溶液 | 特性 | 用途 | |
---|---|---|---|
硫酸アルマイト | 硫酸 | 高硬度/耐摩耗性/耐食性/耐候性 | 【組立部品】デジタルカメラ/スマホの外装部品/航空機部品 |
シュウ酸アルマイト | シュウ酸 | 高硬度/耐摩耗性/耐食性/りんなどの放出無し | 【組立部品】金色に発色したやかん鍋 |
クロム酸アルマイト | 無水クロム酸 | 耐熱性/クラックフリー/耐食性 | 【組立部品】航空機部品 |
リン酸アルマイト | リン酸 | 耐食性/安定した接着効果 | 塗装/接着下地 |
硫酸アルマイトは一般的なアルマイトの一種で、アルマイト処理後の表面粗さが小さいのが特徴です。基材の質感を生かすことができ、多彩な着色が可能です。
シュウ酸アルマイトは、硫酸アルマイトよりもさらに耐食性に優れています。膜厚が増加するにつれ、優れた絶縁性を発揮します。
クロム酸水溶液につけてアルミニウム皮膜を発生させる加工法です。銅含有量の多い高力アルミニウム合金に対して優れた耐食性、耐熱性などを与えることができます。亀裂や破損を起こしにくいクラックフリーとして知られ、飛行機の部品などに使われています。
塗装や接着強度を向上させるための前処理として行われます。リン酸液でアルマイト加工を行うと、一般的なアルマイト加工よりも孔径が大きくなるため、着色が容易になります。
材質とアルマイトの関係性は以下のとおりです。
材質名称 | 合金系 | 特徴 | アルマイト性 | ||
---|---|---|---|---|---|
処理の しやすさ |
耐食性 | 着色性 | |||
1000番台 | 純アルミ系 | 加工性、耐食 光沢、溶接 |
◎ | ◎ | ◎ |
2000番台 | Al-Cu系 | 高強度 (ジュラルミン) 切削性 |
△ | △ | △ |
3000番台 | Al-Mn系 | 中強度、耐熱 耐食 |
○ | ○ | ○ |
4000番台 | Al-Si系 | 耐摩耗 低熱膨張低融点 |
△ | ○ | × |
5000番台 | Al-Mg系 | 中強度、耐食 | ○ | ○ | ○ |
6000番台 | Al-Mg-Si系 | 中強度、過去性 耐食 |
○ | ○ | ○ |
7000番台 | Ai-ZnーMg系 | 高強度 (超々ジュラルミン) |
△ | ○ | ○ |
△:皮膜の形成は可能であるが、処理条件に注意が必要
×:皮膜に色があるため、期待通りの着色皮膜形成が難しい
一般的なアルマイト加工(処理)の工程について解説します。
封孔処理とは、アルマイト加工(処理)時に表面に形成される酸化皮膜の微細な孔を密閉する工程です。この処理は、酸化皮膜の耐食性、耐候性、耐光性、耐摩耗性を向上させ、外部からの物質の浸透を防ぐ役割を果たします。
アルマイト加工(処理)を施したアルミ製品は、高硬度、耐摩耗性を必要とする以下の用途で主に使われています。
アルマイト加工(処理)の事例を紹介します。
陽極酸化皮膜厚さは、平均皮膜厚さ(µm)によって表し、以下の表1に適合しなければならないとJIS規格で定められています。
皮膜厚さの等級は、製品の用途及び使用環境などを考慮して選択します。受渡当事者間で特別な協定がない限りは表1によります。
【皮膜厚さの等級(表1)】
等級 | AA3 | AA5 | AA6 | AA10 | AA15 | AA20 | AA25 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
平均皮膜厚さ µm | 3.0以上 | 5.0以上 | 6.0以上 | 10.0以上 | 15.0以上 | 20.0以上 | 25.0以上 |
*定められた平均皮膜厚さの80%に満たない測定点皮膜厚さがあってはならない。
皮膜厚さの等級は、製品の用途や使用環境に応じて最適な等級を選択します。
【皮膜厚さの等級と主な用途例】
皮膜厚さの等級 | 主な用途例 |
---|---|
AA3 | 反射板、家電部品(内部)など |
AA5/AA6 AA10 |
台所用品、日用品、家電部品、装飾品 家具部材、車両内装、建築部材(屋内)など |
AA15/AA20 AA25 |
台所用品、車両外装、 土木・建築部材(屋外)、船舶用品など |
用途上必要な場合は、受渡当事者間の協定により最低皮膜厚さを取り決める場合があります。
アルマイト | anodized aluminum |
---|---|
陽極酸化皮膜 | anodized film |
陽極 | anode |
陽極酸化処理、陽極処理 | anodizing |
白アルマイト | white anodized |
硬質アルマイト | hard anodized aluminum |
着色アルマイト | coloring anodized aluminum |
テフロン硬質アルマイト | teflon hard anodized aluminum |
硬質着色アルマイト | hard coloring anodized aluminum |
タフカラー30 | tough color 30 |
着色 | coloring |
電解着色 | electrolytic coloring |
染色 | staining |
陽極酸化 | anodization |
微細孔 | micropore |
アルマイト処理(加工)について、特徴や用途を詳しく解説しました。
アルミニウムをアルマイト加工(処理)することによって、耐食性・耐摩耗性・放熱性・絶縁性などを向上できます。使用目的や環境に合わせた処理方法を選択すれば、さまざまな分野での活用が可能です。カラーリングも可能で、デザインの幅も広がることでしょう。
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